Goodbye, World.

世界は変わった

昨今の AI の進化は、本当に目まぐるしい。

2026年3月5日、AI スタートアップ企業 Anthropic は経済調査「Labor market impacts of AI: A new measure and early evidence (AIが労働市場に与える影響:新たな指標と初期の知見)」を公開した。

図:職業カテゴリ別の理論的能力と観測された曝露量

職業カテゴリ別の理論的能力と観測された曝露量

上の図では、理論的に AI が実行可能な仕事の割合 (青色) と、実際に現在カバーしている仕事の割合 (赤色) を示している。是非、自分の仕事の分野についても確認してみてほしい。

コンピュータ・数学の分野では、理論的に AI が実行可能な仕事の割合は 94%、実際に現在カバーしている仕事の割合は 33% と示されている。つまり、今もこれからも、AI の影響を強く受ける分野であるということだ。

表:最もリスクの高い職業

最もリスクの高い職業

おまけに、コンピュータプログラマは最もリスクの高い職業 (つまり AI に代わられやすい職業) として栄えある第1位となった。優勝おめでとう!😊

LGTMと書かれたgif

エンジニアっぽい画像。LGTM (Looks Good To Me) は、コードレビューで承認の際によく使われる言葉で、良さそうだねという意味。Google が起源らしい。決して上記の事項に対する LGTM ではない。

私は普段、ソフトウェアエンジニアとして仕事をしているが、このデータが示す現実、つまりこの仕事が AI に取って代わられていく現実を肌で感じている。そして、その感覚は日々強まるばかりだ。

大学の頃、私は自らの手でコードを書いていた。恐らく多くの人がイメージする、キーボードをカタカタ叩くエンジニアの姿だ。新卒 1~2 年目、この頃はせいぜい ChatGPT に質問したり、断片的なコードを生成してもらう程度だったと思う。1年半前くらいになると、コード入力の自動補完に AI が入り込み、数十行レベルのコードを提示するようになった。

A few moments laterと書かれたgif

そして今、全てのコードを AI が記述している。

全てとは 99.9% ではなく、100% である。実際、現在進行中の個人プロジェクトでは、100% のコードが AI によって記述されている。

私は何をしているのかといえば、AI に方針を示し、AI の動きを監視し、時々口を出し、時々筋トレをし、AI が生成したコードをレビューしている (レビューにも AI を使用している)。要するに AI 監視員のようなものだ。

職種としてソフトウェアエンジニアであるという事実は今も変わらないが、実態として行っている行為はここ数年で全く異なるものとなった。

世界は変わったのだ。そして二度と戻ることはないだろう。

失って気づいたこと

ここ最近、現在のエンジニアリングの形に言葉にできない違和感を感じている。それは良し悪しの話ではなく、心が満たされない何か、退屈感のようなものだ。

私は何かを作りたいと思った時、それが実際に完成することが自分にとって重要だと思っていた。つまり、ゴールすることが重要であり、その過程や手段にそれほどこだわりがあるとは思っていなかった。

しかしそこには、自分にとって何か大切なものがあったのかもしれない。

  • 良いコードを書けた時、速くコードを書けた時の喜び
  • 1つ1つの小さな機能が動いた時の喜び
  • 手を動すことで得られる、作っているという実感
  • コードを書けるという能力から得られる自信

男性が走るgif

50m走は、自分の足で物凄い速さで走れたからこそ、そこに喜びが生まれるものだと思う。人工的な追い風の中、ジェットパックを背負い、50mの動く歩道をローラースケートで走って誰が喜べるというのだろうか。

私が感じる現在のエンジニアリングの姿はそれに近い。作るという行為・過程の多くを AI に任せた結果、物凄い速度で完成する。私は AI と対話し、Enter キーを押しているだけだ。

私は 50m の上を全力で走っていない。1つ1つを自分の手で積み上げ、完成したからこそ得られる喜び、作ったという手触りがそこにはないのだ。

console.log(“Goodbye, World.”);

泣いている少年が手を振るgif

"Hello, World!" は、プログラミングを学ぶ際に最初に出力する定番の言葉である。

コーディングが AI に代替され、大量のアウトプットが可能になった今、コードレビューまでもが AI に代替されつつある。

近い将来、ソフトウェアエンジニアリングにおけるあらゆる行為は、全て AI に代替されると考えている。要望を伝えると、必要に応じて AI がヒアリングを行い、即座に完成品がアウトプットされ、自律的に保守・運用される未来だ。そこでは作る手触りを実感する以前に、作るという過程を実感する隙すら無いだろう。

私は今後も作りたいものがあれば、その時々のエンジニアリングの形で作り続けるつもりだ。しかし仕事としては、過程と手触りを実感できることを望んでいる。自分がやっているという実感、1つ1つ積み上げる実感を得られる仕事だ。

いつか、それも遠くない未来に、私はソフトウェアエンジニアという職に別れを告げるかもしれない。私の現在の仕事は AI によって徐々に代替されてしまうが、AI のおかげでこれまでの人生で考えもしなかった選択肢を得たのだ。

もっとも、未来は誰にも分からない。もしその時が来たら、卒業証書代わりにこのコードの出力を貰おうと思う。

console.log("Goodbye, World.");

出典